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■菜の花は食べて良し、見て良し ピリッとした辛味がおいしい「菜の花」(アブラナ、ハナナとも呼ぶ)の出荷 が最盛期を迎えている。食卓に春を添えるには格好の野菜だが、目においしい だけでなく栄養価も相当なものだ。しかも菜の花は葉菜として季節を楽しむだ けのものではない。油を絞る作物としても古くから栽培されてきた。平安時代 には燈火に、江戸時代以降には「なたね油」として食用にしてきたし、最近で は有害物質の排出が少ない代替燃料としても注目を集めている。時代とともに 利用法は変わってきたが、菜の花は日本人には馴染み深い作物といえるだろう。 さて、地中海から北ヨーロッパにかけてが原産地といわれている菜の花が中 国を経て日本に伝来したのは、奈良時代ごろといわれている。当時は葉を食べ ていたが、のちに種子は薬として用いられるようになった。唐の時代の医学書 『本草拾遺(ほんぞうしゅうい)』(739)には、煮て食べると血の滞りをなくし て腰や脚の疼痛や炎症をとる、油を頭に塗ると頭髪が黒くなるという記述もあ る。現在でもアブラナ科の植物は漢方生薬として用いられている。 では、栄養面ではどうだろう。生100gあたりのビタミンCはホウレン草の2 倍以上の130mg、ビタミンB2は0.28μg、鉄分は2.9mg、カルシウム160mgと ビタミンやミネラルが豊富で、緑黄色野菜としてもホウレン草や小松菜に引け をとらない。さらにガン予防効果が高いとされるイソチオシアネートも多く、 豊富な食物繊維との相乗効果が期待できる。お浸し、炒め物、揚げ物、漬物と 料理も多いが、栄養損失を防ぐために加熱は短時間で済ませたい。買うときに は、切り口がみずみずしく花が開いていないものを選ぼう。 菜の花の優れた点を紹介してきたが、忘れてならないのは郷愁を誘う風景を つくっていることだろう。日本中どこでも見られる菜の花は、鮮やかな黄色や 独特の香りで幼い日の記憶をよみがえらせてくれる植物ではないだろうか。唱 歌『おぼろ月夜』に歌われているように里山の美しい春を彩る花として、現代 人の心の栄養にもなりそうだ。 |
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